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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)118号 判決

大阪市天王寺区小橋町1番25号

原告

大阪シーリング株式会社

代表者代表取締役

松口正

訴訟代理人弁理士

岡田全啓

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

荒井寿光

指定代理人

幸長保次郎

熊谷繁

吉野日出夫

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者が求める裁判

1  原告

「特許庁が平成6年審判第3754号事件について平成7年2月23日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和61年3月7日、名称を「ラベル貼着装置」とする発明(以下、「本願発明」という。)について特許出願(昭和61年特許願第50963号)をしたが、平成6年2月1日に拒絶査定がなされたので、同年3月3日に査定不服の審判を請求し、平成6年審判第3754号事件として審理された結果、平成7年2月23日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年3月30日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

その長手方向に間隔を隔てて一時的かつ剥離可能にラベルが貼着された帯状の剥離シート材、

前記剥離シート材をその長手方向に移送可能に保持するための保持手段、

前記保持手段から前記剥離シート材を引き出しかつその剥離シート材をその長手方向に移送するための移送手段、

前記剥離シート材の移送経路上に設けられ、その先端において前記剥離シート材が急激に折り返されることによって、前記ラベルを前記剥離シート材から剥離するための剥離手段、および

前記移送手段によって移送されてきた前記剥離シート材を、前記剥離手段の先端で急激に折り返すように、引っ張るための引張手段を含む、ラベル貼着装置(別紙図面A参照)

3  審決の理由の要点

(1)本願発明の要旨は、前項(特許請求の範囲第1項)記載のとおりと認める。

(2)これに対し、本出願前に日本国内において頒布された昭和55年特許出願公開第89049号公報(以下、「引用例」という。)には、ラベル発行機本体の上方の所定位置に設けられたホルダーに回転自在に支持された巻紙から引き出したラベル付き剥離台紙上の各ラベルにプリンタにより品名、単価等を印刷した後、その印刷された各ラベルを剥離台紙から剥離するように構成したラベル発行機において、プリンタの挿入口の前に設けられ、巻紙からラベル付き剥離台紙を引き出し、かつラベル付き剥離台紙をその長手方向に送り込むように構成された一対のベルトコンベア(又は一対のローラ)からなる送り込み装置と、ラベル付き剥離台紙の移送経路上で、ラベル付き剥離台紙の装填時の位置とラベル発行時の位置を選択的に取りうるように回動自在に設けられ、ラベル発行時において、その先端部で剥離台紙が急激に折り返されることによって剥離台紙からラベルを剥離する剥離台と、送り込み装置によって移送されてきた剥離台紙を剥離台の先端で急激に折り返すように移送するための、剥離台の下流側に設けられた一対のローラとを備えており、送り込み装置による送り量よりも一対のローラの引っ張り量を大きく設定して、一対のローラと送り込み装置との間において剥離台紙にテンションが加わるようになし、そのテンションが大きい場合には摩擦動力伝達機構において滑りが生じ、剥離台紙には常に適当圧のテンションが加わって、剥離台紙が切断されることがないようになしたラベル発行機が記載されている(別紙図面B参照)。

(3)そこで、本願発明と引用例に記載された発明(以下、「引用発明」という。)とを対比すると、引用発明の「ラベル付き剥離台紙」、「ホルダーに回転自在に支持された巻紙」及び「剥離台」は、本願発明における「一時的かつ剥離可能にラベルが貼着された帯状の剥離シート材」、「剥離シート材をその長手方向に移送可能に保持するための保持手段」及び「剥離手段」にそれぞれ相当し、引用発明の「送り込み装置」は、ラベル付き剥離台紙の装填時及び通常のラベル発行時において、巻紙からラベル付き剥離台紙を引き出し、かつラベル付き剥離台紙をその長手方向に送り込むように構成されており、本願発明の「移送手段」に対応し、さらに引用発明の「(剥離台の下流側に設けられた)一対のローラ」は、通常のラベル発行時においては、剥離台の先端で急激に折り返すように剥離台紙を引張り移送するように構成されており、本願発明の「引張手段」に対応する。そして、引用発明において、「送り込み装置」と「一対のローラ」は、剥離台の上流側と下流側にそれぞれ配設されており、これらの間における剥離台紙に適切なテンションが加わるようにして、剥離台の先端でラベルが剥離しうるようになし、そしてその間のテンションが大きい場合には摩擦動力伝達機構において滑りが生じるようにし、剥離台紙を切断することなく移送しうるように構成されているところであって、本願発明における「移送手段」及び「引張手段」と同様の作用及び機能を奏するものと認められる。

(4)したがって、両発明は、「一時的かつ剥離可能にラベルが貼着された帯状の剥離シート材、剥離シート材をその長手方向に移送可能に保持するための保持手段、保持手段から剥離シート材を引き出しかつその剥離シート材をその長手方向に移送するための移送手段、剥離シート材の移送経路上に設けられ、その先端において前記剥離シート材が急激に折り返されることによってラベルを剥離シート材から剥離するための剥離手段、および移送手段によって移送されてきた剥離シート材を剥離手段の先端で急激に折り返すように引っ張り移送するための引張手段を含むラベル処理装置(本願発明においては「ラベル貼着装置」、引用発明においては「ラベル発行機」)である点で一致し、次の2点において相違する。

〈1〉 ラベル処理装置が、本願発明においてはラベル貼着装置であるのに対して、引用発明においてはラベル発行機である点

〈2〉 剥離シート材に貼着されたラベルが、本願発明においては剥離シート材の長手方向に間隔を隔てて貼着されているのに対して、引用発明においては各ラベルがどのような配列で貼着されているのか定かでない点

(5)次に、これらの相違点について検討するに、相違点〈1〉についてみると、引用発明はラベル発行機に関するものであって、ラベルを貼着すべき商品を計量装置により計量する等して、剥離台紙上の各ラベルに、単価、重量、値段、商品名等をプリンタによって印刷した後に、その印刷されたラベルを剥離台紙から剥離しうるようになし、そして例えば作業者がほぼ剥離されたラベルをつかんで剥離台紙から剥離し、所定の商品に貼着するものであって、ラベル貼着装置とは相違する。しかしながら、前記のラベル発行機やラベル貼着装置は共に本出願前に周知慣用のものであり、しかもそれらの装置におけるラベルやラベル付き剥離シート材の送り手段やラベルの剥離手段については格別異なるものではない。したがって、ラベル発行機におけるラベルやラベル付き剥離シート材の送り手段等をラベル貼着装置に採用することは、当業者が格別な困難性を伴うことなく容易になしうる程度の事項と認められる。よって、引用例記載のラベル発行機に関する技術をラベル貼着装置に採用して、相違点〈1〉に係る本願発明のような構成とすることは、当業者が容易に想到しえたものと認める。

相違点〈2〉についてみると、引用発明においては各ラベルがどのような配列で剥離シート材に貼着されているのか定かでないけれども、ラベルをその長手方向に間隔を隔てて一時的かつ剥離可能に剥離シート材に貼着したものは、ラベル発行機やラベル貼着装置において通常一般に使用されており、本出願前に周知慣用のものである。よって、帯状の剥離シート材をその長手方向に間隔を隔てて一時的かつ剥離可能にラベルが貼着された帯状の剥離シート材と特定することは、当業者が必要に応じて適宜選定しうる程度の事項であって、この相違点〈2〉は単なる構成の変更にすぎないものである。

そして、本願発明は、全体構成でみても、引用発明ならびに前記の周知慣用の技術的事項から予測できる作用効果の総和以上の顕著な作用効果を奏するものとは認められない。

したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認められるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

引用発明が下記(1)で指摘する点を除いて審決認定のとおりのものであり、本願発明と引用発明が審決認定の2点において相違することは認め、相違点〈2〉についての審決の判断は争わない。

しかしながら、審決は、引用発明の技術内容を誤認した結果、本願発明との一致点の認定及び相違点〈1〉の判断を誤り、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと誤って判断したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)一致点の認定の誤り

審決は、引用発明の構成について、「ラベル発行時において、その先端部で剥離台紙が急激に折り返されることによって剥離台紙からラベルを剥離する剥離台」、「送り込み装置によって移送されてきた剥離台紙を剥離台の先端で急激に折り返すように移送するための、剥離台の下流側に設けられた一対のローラ」(3頁18行ないし4頁3行)、及び、一対のローラは「通常のラベル発行時においては、剥離台の先端で急激に折り返すように剥離台紙を引張り移送するように構成されて」(5頁6行ないし9行)いると認定したうえ、引用発明の「剥離台」は本願発明の「剥離手段」に相当し、引用発明の「一対のローラ」は本願発明の「引張手段」に対応すると認定している。

しかしながら、引用発明は、手で剥離台紙からラベルを引き剥がし、そのまま手で商品等に貼り付ける構成のものであるから、引用発明の剥離台は、剥離台紙が急激に折り返されるものではなく、したがって、一対のローラも、剥離台紙が急激に折り返されるように移送するためのものではない。

これに対し、本願発明において剥離シート材を急激に折り返すように構成することは、ラベルを自動的に貼着する装置の必須の機能からそのように構成されるもので、本願発明に係るラベル貼着装置は、剥離手段によって剥離シート材が急激に折り返される前におけるラベルの移送方向とほぼ近い方向に向けて、剥離手段の下方において被貼着物を移送し、剥離手段の下部の貼着位置に移送されてきた被貼着物にラベルを自動的に貼り付けることができるように構成することが必須である。

なお、急激に折り返すとは、剥離シート材を折り返し、折り返される前の剥離シート材及びラベルの移送方向とほぼ近い方向に向けてラベルのみを繰り出し、その下方において被貼着物を移送し、ラベル貼着位置に被貼着物を移送しても被貼着物の移送の障害とならない方向に剥離手段によって剥離されたシート材のみを急激に折り返し移送していくように構成しなければ、ラベル貼着装置の機能を完全に果たすことができないから、自ずとラベル発行機とは異なった角度で折り返すべきことは自明である。

すなわち、引用発明においては、剥離台の上流側と下流側で剥離台紙が急激に折り返されることはなく、単に、剥離台紙からラベルを剥離するに適当な角度で折り返し、剥離台によって剥離台紙に大きなテンションが加わらないようにしており、剥離台紙からラベルを剥離するために手で引き剥がすという、比較的大きな力で引き剥がすことを前提として構成されているのである。

これに対し、本願発明においては、剥離手段の上流側と下流側(すなわち、剥離手段の先端において剥離シート材が折り返される前と後)で、その方向が急激に変わるように構成し、ラベルを剥離シート材に仮着する粘着剤の粘着力に抗して、剥離シート材からラベルを引き剥がすようにしている。したがって、被貼着物にラベルの先端が貼着されると、被貼着物が搬送されるに従いラベルが引かれ、かつ、剥離シート材が移送されることによって、剥離シート材からラベルが剥離され、正確に被貼着の所定の位置に貼着されるのである。

以上のとおり、引用発明の「剥離台」及び「一対のローラ」は、本願発明の「剥離手段」及び「引張手段」とは構成及び作用を全く異にするものであるから、これらを一致するとした審決の認定は誤りである。

(2)相違点〈1〉の判断の誤り

審決は、「両発明は(中略)ラベル処理装置(中略)である点で一致」(6頁1行ないし15行)するとしたうえ、相違点〈1〉について、「ラベル発行機やラベル貼着装置は共に本願出願前に周知慣用のものであり、しかもそれらの装置におけるラベルやラベル付き剥離シート材の送り手段やラベルの剥離手段については格別異なるものではない。」(7頁17行ないし8頁1行)と判断している。

しかしながら、本願発明と引用発明は技術的思想を異にしており、ラベル発行機とラベル貼着装置は、構成及び作用効果において全く相違するものである。

a ラベル発行機は、巻紙から引き出した剥離台紙上の各ラベルに、プリンターにより品名、単価等を印刷した後、その印刷された各ラベルを剥離台紙から手で剥離し、剥離したラベルはそのまま手で所定の商品に貼着するものである。

これに対し、ラベル貼着装置は、一時的にかつ剥離可能にラベルが貼着された帯状の剥離シート材をラベルとともに移送し、剥離シート材の移送経路上に設けられた剥離手段の先端において剥離シート材が急激に折り返されることによってラベルを剥離シート材から剥離することにより、剥離手段の下をほぼ剥離シート材の折り返し前の進行方向と近い方向に移送される被貼着物にラベルを自動的に貼着するものであって、ラベル発行機とは全く異質のものである。

b ラベル発行機は、毎分3~4mの低速で剥離台紙を移送し、ラベルの表面にプリンターで印字するように構成すればその機能を果たすことができ、ラベルを剥離台紙から剥がして被貼着物の所定場所に正確に自動貼着することは、全く考慮する必要がないものである。

これに対し、ラベル貼着装置は、ラベル発行機と比較すると極めて高速の毎分20~30mで剥離シート材を移送し、かつ、被貼着物の所定位置に正確にラベルを自動貼着する必要がある。そのために、本願発明は、引張り強さの小さな剥離シート材であっても正確に移送しなければならないことはもちろん、高速で移送される剥離シート材の移送速度や被貼着物の移送速度との関係から、ラベルを剥離して被貼着物に向けて繰り出すタイミングも図りながら、ラベルを剥離シート材から引き剥がしつつ前方すなわち被貼着物に向けて繰り出し、かつ、被貼着物の移送と併せて、剥離シート材を移送して、被貼着物の所定位置に正確に貼着しなければならない。そこで、本願発明のラベル貼着装置は、ラベル検知器42によるラベルの存在、ラベルの端縁の検知に伴って発される電気信号に対応して、モータ28、60、62、電磁クラッチ26及び電磁ブレーキ36を作動させて、剥離シート材の進行と停止を繰り返しながら、被貼着物の移送速度とのタイミングをとって、被貼着物にラベルを貼着するものであって、引用発明とは技術的思想において明らかに異なるものである。

c したがって、両発明の目的をみても、引用発明は、従来のラベル発行機において必要であったラベル付き剥離台紙を装填する比較的手間のかかる手作業を、ほぼ自動的に行うことを目的として創案されたものである。

これに対し、本願発明は、保持リール12(送出しリール)に装填されている帯状の剥離シート材を巻き重ねた径が大きいときは、引張手段44、56により多くの負荷がかかり、その負荷によりスタート時間が狂って、ラベルの被貼着物における貼着位置が不正確になるので、移送手段20、34を設けることによって、保持リール12と移送手段20、34との間の弛みや緩みをなくし、上記の径の相違からくる負荷の相違を吸収して、ラベル1枚ずつを間欠送りする、すなわち剥離シート材の移送と停止を繰り返しつつ、1枚ずつラベルを被貼着物に向けて送り出すようにしたラベル貼着装置を提供するものである。また、本願発明は、剥離手段38(剥離プレート)の先端において剥離シート材が急激に折り返されるように引張手段44、56で引っ張ることによって、剥離プレートの先端における負荷を低減するようにしたものである。

このような技術的課題は、引用発明においては全く意識されておらず、したがって、引用発明は上記のような作用効果を奏することはできない。

以上のとおり、ラベル発行機とラベル貼着装置は、技術的課題(目的)、構成及び作用効果を異にするものであるから、相違点〈1〉について、「ラベル発行機におけるラベルやラベル付き剥離シート材の送り手段等をラベル貼着装置に採用することは、当業者が格別の困難性を伴うことなく容易になしうる程度の事項と認められる。よって、引用例に記載されたラベル発行機に関する技術をラベル貼着装置に採用して、相違点〈1〉にかかる本願発明のような構成とすることは、当業者が容易に想到しえたものと認める。」(8頁2行ないし9行)とした審決の判断は、誤りである。

第3  請求原因の認否及び被告の主張

請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は認めるが、4(取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  一致点の認定について

(1)原告は、引用発明の剥離台は、その上流側と下流側で剥離台紙が急激に折り返されることはなく、単に剥離台紙からラベルを剥離するに適当な角度で折り返すものであると主張する。

しかしながら、引用発明の剥離台は、円弧面4aと平面4bを備えた断面半円形に形成されており、円弧面4aを上向きにした状態では、剥離台紙は円弧面に沿ってラベルを剥離することなく移送され、一方、平面4bを上向きにした状態では、剥離台紙は鋭角的な角部4cによって折り返されて印刷されたラベルを剥離台紙から剥離し、さらに、剥離台紙の移送経路はほぼ直角に折り曲げられている。したがって、引用発明の剥離台においては、平面4bを上向きにしラベルを剥離すべく移送される剥離台紙は、円弧面4aを上向きにしラベルの剥離を要しない状態で移送される剥離台紙に比して、鋭角的な角部4cにより急激に折り返されているということができる。

また、引用発明の剥離台及び剥離台紙の移送方向と同様の構造及び配置関係を有するもの(すなわち、剥離台の上流側と下流側で剥離台紙が適当な角度で折り返され、剥離台紙からラベルを剥離するようにしたもの)を、通常一般に、「ラベルを貼着した剥離台紙からラベルを剥離するのに、剥離台紙を急激に或いは大きく折り返すことにより行う」と称することは、例えば乙第1号証(平成4年特許出願公開第331134号公報)、第2号証(平成4年特許出願公開第18241号公報)あるいは第3号証(平成4年特許出願公開第173534号公報)から明らかである(これらは本出願後に頒布されたものであるが、「急激に或いは大きく折り返す」ことの意味内容が、本出願の前後において異なっているとする根拠はない。)。したがって、本願発明にいう「急激に折り返される」は、引用発明のような態様も含むと解しうることは明らかである。

したがって、引用発明の剥離台を、「ラベル発行時において、その先端部で剥離台紙が急激に折り返されることによって剥離台紙からラベルを剥離する」(3頁18行ないし20行)ものとした審決の認定に誤りはない。そして、引用発明の剥離台と本願発明の剥離手段は、構成及び作用効果において差異が認められないから、引用発明の剥離台は本願発明の剥離手段に相当するとした審決の認定判断にも誤りはない。

この点について、原告は、本願発明の剥離手段は、その先端において剥離シート材が折り返される前と後でその方向が急激に変わり、剥離手段の下方において被貼着物の移送の障害にならない方向に剥離シート材のみを急激に折り返し移送していく構成のものであるという趣旨の主張をしている。

しかしながら、本願発明の特許請求の範囲には被貼着物に関する記載が全くなく、本願明細書の発明の詳細な説明にも、単に「ラベル5は…剥離され、物品(図示せず)側に供給される。」(5頁1行ないし3行)、「ラベル18が…剥離され、物品(図示せず)に貼着される。」(13頁13行、14行)と記載されているにすぎないから、被貼着物の移送を、剥離手段によって剥離シート材が急激に折り返される前におけるラベルの移送方向とほぼ近い方向に向けて、剥離手段の下方において被貼着物を移送するように限定的に解釈することはできない。すなわち、本願発明においては、ラベル貼着装置と被貼着物及びその移送方向との関係、さらに剥離シート材の移送方向について、特許請求の範囲に格別記載されておらず、発明の詳細な説明をみても、原告が主張するように解釈すべき特段の理由は見当たらない。したがって、「急激に折り返す」ことの意味内容を、原告が主張するように、剥離手段の下方において被貼着物の移送の障害にならない方向に剥離手段によって剥離シート材のみを急激に折り返して移送していくような構成と限定して解釈できるものではない。よって、原告の「急激に折り返す」についての主張は、本願発明の要旨に基づかないものであって、失当である。

(2)原告は、引用発明の一対のローラは剥離台紙が急激に折り返されるように移送するためのものではないと主張する。

しかしながら、引用発明の一対のローラは、剥離台紙を剥離台の先端角部によって折り返してラベルを剥離する剥離台の下流側に配置され、剥離台紙を剥離台の先端角部を介して移送するために、剥離台紙を引っ張る作用を行うものである。

一方、本願発明の引張手段は、剥離シート材を剥離手段の先端で急激に折り返すように引っ張るための手段であるが、その構成自体は、明細書全体の記載からも明らかなとおり、剥離シート材に対し長手方向に引っ張るために、剥離シート材に引張力を加えるものであって、剥離シート材を剥離手段の先端で急激に折り返して被貼着物の移送の障害にならない方向に移送するようにするための、特有の配置や構造を備えたものではない。

したがって、引用発明の一対のローラを、「送り込み装置によって移送されてきた剥離台紙を剥離台の先端で急激に折り返すように移送するための、剥離台の下流側に設けられた」(3頁20行ないし4頁3行)ものとした審決の認定に誤りはない。そして、引用発明の一対のローラと本願発明の引張手段は、構成及び作用効果において差異が認められないから、引用発明の一対のローラは本願発明の引張手段に対応するとした審決の認定判断にも誤りはない。

2  相違点〈1〉の判断について

原告は、ラベル発行機とラベル貼着装置は、技術的思想、構成及び作用効果を全く異にするものであるから、相違点〈1〉についての審決の判断は誤りであると主張する。

(1)原告は、まず、ラベル貼着装置は、ラベルが貼着された帯状の剥離シート材をラベルとともに移送し、剥離シート材の移送経路上に設けられた剥離手段の先端において剥離シート材が急激に折り返されることによってラベルを剥離シート材から剥離することにより、剥離手段の下をほぼ剥離シート材の折り返し前の進行方向と近い方向に移送される被貼着物にラベルを自動的に貼着するものであると主張する。

しかしながら、本願明細書には、ラベル貼着装置と被貼着物との位置関係や剥離シート材の折返し前の進行方向と被貼着物の移送方向の関係は何ら記載されておらず、もとより特許請求の範囲にも記載されていないのであるから、本願発明のラベル貼着装置を原告主張のように限定して解釈することはできない。

(2)原告は、次に、ラベル貼着装置はラベル発行機に比して極めて高速で剥離シート材を移送するものであると主張する。

しかしながら、ラベル貼着装置は、剥離シート材を移送と停止を繰り返しながら(すなわち、間欠的に)移送するものであり、一方、ラベル発行機も、ラベルに印刷あるいは印字を行う機能を有しているとはいえ、剥離シート材を移送と停止を繰り返しながら(すなわち、間欠的に)移送するものであって、剥離シート材の移送に関する限り、両者は何ら相違するものではない。

なお、原告は、本願発明はラベル検出器によってモータ、電磁クラッチ、電磁ブレーキ等の部材を作動させて、剥離シート材の速度を被貼着物の移送速度との関係でタイミングを図りながら、剥離シート材を移送し、被貼着物にラベルを貼着するものであると主張している。

しかしながら、本願発明は、ラベル検出器や上記のような部材を必須の構成要件としておらず、被貼着物との関係も、本願発明の要旨に係るものではない。

(3)原告は、ラベル貼着装置は高速で剥離シート材を移送し、ラベルを自動的に貼着するものであるのに対し、ラベル発行機は低速で剥離台紙を移送し、プリンターにより印刷されたラベルを手で剥離し手で貼着するものであるから、両者は技術的思想において相違すると主張する。

しかしながら、本願発明のラベル貼着装置が高速で剥離シート材を移送し、ラベルを自動的に貼着するものであるという点は、本願発明の要旨に係るものではない。

のみならず、ラベルに印刷あるいは印字を行う機能を備えているものにおいて、剥離シート材から剥離されたラベルを被貼着物に機械的に貼着するように構成することは、乙第4号証(昭和47年特許出願公開第36900号公報)、第5号証(昭和58年特許出願公開第20631号公報)、第6号証(昭和58年実用新案出願公開第832号公報)及び第7号証(昭和59年実用新案登録願第39743号(昭和60年実用新案出願公開第150906号)の願書に添付された明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写し)等にみられるように、本出願前に周知慣用の技術である。したがって、ラベル発行機とラベル貼着装置は、いずれも、剥離シート材を保持手段から繰り出して移送し、剥離シート材からラベルを剥離し、ラベルを被貼着物に貼着するように構成したものであり、この点において両者は共通するものである。

さらに、本願発明は、移送手段、剥離手段及び引張手段を備えることにより、剥離シート材に比較的弱い引張力しか加わらないように構成して、引張強さの小さい剥離シート材にも使用することを意図するものであるが、引用発明も、送り込み装置、剥離台及び一対のローラを備えることにより、剥離台紙を適切な引張力で移送するように構成して、剥離台紙を破断しないようにしたものである。したがって、本願発明と引用発明は、ラベルを剥離可能に貼着した剥離シート材、移送手段、剥離シート材からラベルを剥離する剥離手段及び引張手段を備え、剥離シート材を破断することなく移動させ、かつ、ラベルを剥離させるようにしたラベル処理装置としては軌を-にするものであって、格別異なるものではない。

したがって、本願発明と引用発明は技術的思想において相違するという原告の主張は理由がない。そして、ラベル貼着装置とラベル発行機は、ラベル付き剥離シート材の送り手段に関しては共通する技術分野に属するものであり、両者の技術は互いに転用しうるところであるから、これらの技術の転用は当業者が格別の困難性を伴うことなく適宜になしうる程度の事項である。

(4)原告は、本願発明が高速で剥離シート材を移送して被貼着物にラベルを正確に貼着する装置であり、移送手段を設けることにより引張手段への負荷の相違を吸収してラベルの被貼着物への貼着を正確に行うことを目的とするものであるのに対し、引用発明は、低速で剥離台紙を移送してラベルに印字するものであり、剥離台紙の自動装填を目的とするものであるから、両者は目的、構成及び作用効果を異にするものであって、相違点〈1〉に係る審決の判断は誤りであると主張する。

しかしながら、本願発明が高速で剥離シート材を移送して被貼着物にラベルを正確に貼着するという点は、本願発明の要旨外の事項である。そして、引用例には、送り込み装置、剥離台及び一対のローラを備えることにより、剥離台紙を適切な引張力で移送するように構成して剥離台紙を破断しないようにしながら、ラベルを剥離台紙から剥離することが記載されている。したがって、本願発明と引用発明は、技術的課題(目的)、構成において格別相違するところがなく、原告の上記主張は失当である。

次に、本願発明の作用効果は、本願明細書に記載されているとおり、「剥離シート材に比較的弱い引張力しか加わらないので、引張強さの小さい剥離シート材でもそれを使用することができる。」(明細書7頁19行ないし8頁1行)ことであるが、この作用効果は、本願発明が「保持手段から剥離シート材を引き出しかつその剥離シート材をその長手方向に移送するための移送手段」と「引張手段」とを備える構成からもたらされるものである。しかるに、引用発明においても、ラベル付き剥離台紙をその長手方向に送り込むように構成された送り込み装置と、一対のローラが備えられているのであるから、剥離台紙が切断されることがないという効果(すなわち、剥離シート材に比較的弱い引張力しか加わらないので、引張強さの小さな剥離シート材でもそれを使用することができるという効果)は、当然に奏されるのである。したがって、本願発明と引用発明とが奏する作用効果に関する原告の主張も、失当である。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第1  請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。

1  成立に争いない甲第2号証によれば、特許願書添付の明細書及び図面には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が下記のように記載されていることが認められる(別紙図面A参照)。

(1)技術的課題(目的)

本願発明は、帯状の剥離シート材の長手方向に間隔を隔てて一時的かつ剥離可能に貼着されているラベルを、剥離シート材から剥離し物品に貼着するためのラベル貼着装置に関する(明細書4頁2行ないし6行)。

第4図は、従来例を示す要部図解図であって(4頁8行、9行)、ラベル連続体3は、剥離プレート6に導かれ、そこで、剥離紙4が急激に折り返される。さらに、この剥離紙4は、フィーダローラ7およびニップローラ8間に導かれ、それらのローラ7および8によってその長手方向に移送される。このように、剥離台紙4を急激に折り返して移送すれば、ラベル5は、剥離プレート6によって剥離台紙4から剥離され、物品(図示せず)側に供給される(4頁15行ないし5頁3行)。

ところが、このような従来のラベル貼着装置1では、引張強さの小さい剥離台紙4を用いれば、剥離プレート6およびフィーダローラ7間において切断されてしまうことが多々あった。これは、剥離プレート6の下流側に設けたフィーダローラ7およびニップローラ8によって剥離台紙4を移送するため、剥離台紙4には、少なくとも、剥離台紙4を保持リール2から引き出すための引張力と、ラベル5を剥離台紙4から剥離するための引張力とがかかり、比較的大きい引張力がかかるからである(5頁8行ないし6頁1行)。

本願発明の主たる目的は、引張力の小さい剥離シート材でも使用することができる、ラベル貼着装置を提供することである(6頁8行ないし10行)。

(2)構成

上記の技術的課題(目的)を解決するために、本願発明は、その要旨とする特許請求の範囲第1項記載の構成を採用したものである(1頁5行ないし20行)。

(3)作用効果

移送手段によって、保持手段に保持された剥離シート材が、剥離手段側に移送される。引張手段によって、剥離手段側に移送されてきた剥離シート材が、剥離手段の先端で急激に折り返されるように、その長手方向に引っ張られ、剥離手段によって、ラベルが剥離シート材から剥離される。したがって、剥離シート材を移送する際、剥離手段及び引張手段間に存在する剥離シート材には、剥離シート材を保持手段から引き出すための引張力が加わらない。すなわち、剥離シート材には、比較的弱い引張力しか加わらない(7頁6行ないし17行)。

本願発明によれば、剥離シート材に比較的弱い引張力しか加わらないので、引張強さの小さい剥離シート材でも使用することができる(7頁19行ないし8頁1行)。

2  一致点の認定について

本願発明の要旨が審決認定のとおりであり、本願発明と引用発明が審決認定の2点において相違することは、当事者間に争いがない。

(1)原告は、本願発明に係るラベル貼着装置は、剥離手段によって剥離シート材が急激に折り返される前におけるラベルの移送方向とほぼ近い方向に向けて、剥離手段の下方において被貼着物を移送し、剥離手段の下部の貼着位置に移送されてきた被貼着物にラベルを自動的に貼り付けることができるように構成することが必須であって、かかる構成を必要としない引用発明のラベル発行機の「剥離台」は、本願発明の「剥離手段」とは構成及び作用が全く異なると主張する。

しかしながら、原告が本願発明の必須のものと主張する上記構成が、本願発明が要旨とする構成でないことは、本願発明の特許請求の範囲の記載に照らして明らかである。また、本願出願時において、本願発明が属する「ラベル貼着装置」のすべてが、原告が同装置に必須のものと主張する上記構成を当然の前提として備えるものであったといえないことも明らかである。

そして、本願発明の特許請求の範囲に記載されているラベル貼着装置の技術的思想及び構成はその記載自体から明確に理解することができ、これを把握するために、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しなければならないような特段の事情もない。

したがって、本願発明の「剥離手段」と引用発明の「剥離台」とは構成及び作用が全く異なるという原告の主張は、失当である。

なお、前掲甲第2号証によれば、本願発明が要旨とする「急激に折り返す」の技術的意味について、本願明細書には何度以上の角度で剥離シート材を折り曲げるのか全く説明されていないし、剥離手段と被貼着物の配置関係についても、従来技術について「ラベル5は、…剥離され、物品(図示せず)側に供給される。」(明細書5頁1行ないし3行)、本願発明について「…ラベル18が、…剥離され、物品(図示せず)に貼着される。」(13頁13行、14行)と記載されているにすぎないことが認められる。そうすると、本願発明が要旨とする「急激に折り返す」の技術的意味は、帯状の剥離シート材に一時的かつ剥離可能に貼着されているラベルを物品に貼着するために、ラベルに外力を加えることなくラベルを剥離シート材から剥離するために必要な限度の角度で帯状の剥離シート材を折り返すことであると解するのが相当である。

一方、成立に争いない甲第3号証によれば、引用例には、「剥離台(4)の角部(4c)により剥離台紙(1a)が直角に折り曲げられ、印刷されたラベルは剥離台紙(1a)から剥離されて案内板(36)とガイド枠(49)との間より水平方向前方へ送りだされる。次に作業員がほぼ剥離されたラベルをつかんで剥離台紙(1a)から剥離し、所定の商品に貼着させればよい。」(3頁左下欄3行ないし9行)と記載されていることが認められる。

この記載によれば、引用発明のラベル発行機は、作業者が、ラベルを所定の商品に貼着するために、剥離台紙が直角に折り曲げられ、ほぼ剥離されたラベルをつかむものであるが、作業者がラベルをつかまないときでも、ラベルが剥離台紙から剥離されることは明らかである。すなわち、引用発明の剥離台も、ラベルに外力を加えることなくラベルを剥離台紙から剥離できるものである。そうすると、引用発明の「剥離台」も、ラベルに外力を加えることなくラベルを剥離台紙から剥離するために必要な限度の角度で帯状の剥離台紙を折り返しているものといえるから、本願発明の「剥離手段」と同様の作用を行うものである。

したがって、引用発明の「剥離台」は本願発明の「剥離手段」に相当するとした審決の認定に誤りはない。

(2)原告は、引用発明の剥離台の下流側に設けられた一対のローラは、剥離台紙が急激に折り返されるように移送するためのものではないから、本願発明の剥離シート材を剥離手段の先端で急激に折り返すように引っ張るための引張手段とは構成及び作用が全く異なると主張する。

しかしながら、前記のとおり、引用発明の剥離台は本願発明の剥離手段に相当するものである。

そして、前掲甲第2号証によれば、第1A図及び第1B図に示された本願発明の実施例の説明として、「剥離プレート38の下流側には、引張手段の一部を構成する引張用のフィーダローラ44が設けられる。」(明細書11頁18行ないし20行)、「引張用のニップローラ56が、フィーダローラ44と接触可能に設けられる。そして、フィーダローラ44とニップローラ56間には、剥離プレート38で急激に折り返された剥離台紙16が導かれる。したがって、フィーダローラ44を回転させることによって、(中略)移送されてきた剥離台紙16を引っ張ることができる。」(13頁4行ないし11行)と記載されていることが認められる。したがって、本願発明の引張手段は、剥離手段の下流側に配置され、剥離シート材を剥離手段の先端で急激に折り返すように、剥離シート材に引張力を加えるためのものであることは明らかである。

一方、前掲甲第3号証によれば、引用例には、「(7)は上記剥離台(4)の直下位置に配設された巻取りゴムローラであって、(中略)(9)は該巻取りゴムローラ(7)に接当する押えローラである。」(2頁左上欄2行ないし5行)、「剥離台紙(1a)の一端は、(中略)案内板(36)と剥離台(4)との間を通って下方へ折れ曲がり、(中略)両ローラ(7)(9)内に挿入され、この両ローラ(7)(9)に引張られて」(3頁左上欄1行ないし5行)と記載されていることが認められる。したがって、引用発明の一対のローラも、剥離台の下流側に配置され、剥離台紙を剥離台の先端で急激に折り返すように、剥離台紙に引張力を加えるように作用するものである。

このように、引用発明の「剥離台」は本願発明の「剥離手段」に相当し、しかも、引用発明の「一対のローラ」と本願発明の「引張手段」とは同じ作用を行うのであるから、引用発明の「一対のローラ」は本願発明の「引張手段」に相当するものということができる。

したがって、引用発明の「一対のローラ」は本願発明の「引張手段」に対応するとした審決の認定にも、誤りはない。

(3)以上のとおりであるから、審決の一致点の認定の誤りをいう原告の主張は、理由がない。

3  相違点〈1〉の判断について

(1)原告は、本願発明のラベル貼着装置は、剥離手段の下をほぼ剥離シート材の折り返し前の進行方向と近い方向に移送される被貼着物にラベルを自動的に貼着するものであって、ラベル検知器42によるラベルの存在、ラベルの端縁の検知に伴って発される電気信号に対応して、モータ28、60、62、電磁クラッチ26及び電磁ブレーキ36を作動させて、剥離シート材の進行と停止を繰り返しながら、被貼着物の移送速度とのタイミングをとって、被貼着物にラベルを貼着するものであり、引用発明とは技術的思想において明らかに異なると主張する。

しかしながら、原告が主張する上記構成が本願発明が要旨とする構成でないことは、本願発明の特許請求の範囲の記載に照らして明らかである。前掲甲第2号証によれば、原告が主張する上記構成は第1A図及び第1B図に示された本願発明の一実施例における具体的構成態様であって、本願発明の要旨をこの構成のものに限定することはできない。また、本願出願時において、本願発明が属する「ラベル貼着装置」のすべてが、原告が主張する上記構成を当然の前提として備えるものであったといえないことも明らかである。

そして、本願発明の特許請求の範囲に記載されているラベル貼着装置の技術的思想及び構成はその記載自体から明確に理解することができ、これを把握するために、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しなければならないような特段の事情もないことは、前記のとおりである。

(2)ところで、引用例のラベル発行機は、前記のとおり、所定の印刷がなされ、ほぼ剥離されたラベルを作業者が手で剥離して所定の商品等に貼着するものであるが、巻紙からラベル付き剥離台紙を引き出し、かつラベル付き剥離台紙をその長手方向に送り込むように構成された一対のベルトコンベア(又は一対のローラ)からなる送り込み装置(この点に関する審決の認定は、原告も争っていない。)と、剥離台(前記のように、ラベル付き剥離台紙の移送経路上で、その先端部で剥離台紙が急激に折り返されることによって剥離台紙からラベルを剥離するものであって、本願発明の「剥離手段」に相当する。)と、剥離台の下流側に設けられた一対のローラ(前記のように、送り込み装置によって移送されてきた剥離台紙を剥離台の先端で急激に折り返すように移送するためのものであって、本願発明の「引張手段」に相当する。)とを備えており、これらによって、ラベルを剥離し、ラベルを被貼着物に貼着するものである。なお、引用例の「ラベル付き剥離台紙」、「ホルダーに回転自在に支持された巻紙」及び「送り込み装置」が、本願発明の「一時的かつ剥離可能にラベルが貼着された帯状の剥離シート材」、「剥離シート材をその長手方向に移送可能に保持するための保持手段」及び「移送手段」にそれぞれ相当することは明らかである。

そうすると、本願発明のラベル貼着装置と、引用発明のラベル発行機とは、剥離シート材を保持手段から繰り出して移送し、剥離シート材からラベルを剥離し、ラベルを被貼着物に貼着するというラベル処理の点においては共通するものであり、また、両者は、ラベル処理のために、ラベルを剥離可能に貼着した剥離シート材、移送手段、剥離シート材からラベルを剥離する剥離手段及び引張手段を備え、剥離シート材を破断させることなく移動させ、ラベルを剥離するものであるから、ラベル処理装置としての技術的思想において格別に異なるものではなく、構成からみても共通の要素を持つ近接した類似の技術ということができる。

したがって、相違点〈1〉について、本願発明のラベル貼着装置と引用発明のラベル発行機とはラベル処理装置である点で一致するとし(6頁12行ないし15行)、そのうえで、「それらの装置におけるラベルやラベル付き剥離シート材の送り手段やラベルの剥離手段については格別異なるものではない。したがって、ラベル発行機におけるラベル付き剥離シート材の送り手段等をラベル貼着装置に採用することは、当業者が格別の困難性を伴うことなく容易になしうる程度の事項と認められる。」(7頁19行ないし8頁5行)とした審決の判断に、誤りはない。

(3)原告は、本願発明は、移送手段20、34を設けることによって、保持リール12と移送手段20、34との間の弛みや緩みをなくし、保持リールに装填されている剥離シート材の径の相違からくる負荷の相違を吸収して、ラベル1枚ずつを間欠送りする、すなわち、剥離シート材の進行と停止を繰り返しつつ、1枚ずつラベルを被貼着物に向けて送り出すようにしたラベル貼着装置を提供するものであり、また、剥離手段38(剥離プレート)の先端において剥離シート材が急激に折り返されるように引張手段44、56で引っ張ることによって、剥離プレートの先端における負荷を低減するようにしたものであるが、このような技術的課題は引用発明においては全く意識されておらず、したがって、引用発明は上記のような作用効果を奏することはできないと主張する。

しかしながら、前掲甲第3号証によれば、引用例には「両ベルトコンベア(22)(23)による送り量よりも両ローラ(7)(9)の引っ張り重を大きく設定してあり、この両ローラ(7)(9)と両ベルトコンベア(22)(23)との間において剥離台紙(1a)にテンションが加わるように配慮してある。そしてそのテンションが大きい場合には、摩擦動力伝達機構(31)において滑りが生じ、剥離台紙(1a)には常に適当圧のテンションが加わってこの剥離台紙(1a)がチ切れることはない。」(3頁左上欄19行ないし右上欄7行)と記載されていることが認められる。したがって、引用発明は、本願発明が奏する作用効果と同様の作用効果を奏していると解するのが相当であるから、原告の上記主張は失当である。

すなわち、本願発明が奏する「剥離シート材に比較的弱い引張力しか加わらないので、引張強さの小さい剥離シート材でもそれを使用することができる。」(明細書7頁19行ないし8頁1行)という作用効果は、「保持手段から(中略)剥離シート材を引き出しかつその剥離シート材をその長手方向に移送するための移送手段」と「引張手段」とを備える構成によってもたらされるものである。しかしながら、引用発明も、ラベル付き剥離台紙をその長手方向に送り込むように構成された送り込み装置と一対のローラを備える構成を採用しているから、剥離台紙に比較的弱い引張力しか加わらないので、引張強さの小さい剥離台紙にも使用することができるという作用効果は、引用発明においても当然に奏されているというべきであって、本願発明が奏する作用効果の顕著性をいう原告の主張も、失当である。

(4)したがって、審決の相違点〈1〉の判断の誤りをいう原告の主張も、理由がない。

第3  以上のとおりであるから、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする審決の認定判断は正当であって、審決には原告が主張するような違法はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)

別紙図面A

図において、10はラベル貼着装置、12は保持リール、14はラベル連続体、16は剥離台紙、18はラベル、20および44はフィーダローラ、28はモータ、34および56はニップローラ、38は剥離プレートを示す。

〈省略〉

別紙図面B

〈省略〉

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